【GS1標準のコードとトレーサビリティ】について医療現場での具体的な活用例や、その重要性を中心に、医療従事者の視点からわかりやすく解説していきます。
1.トレーサビリティの語源
英語の “trace”(追跡する、辿る)に由来。
可能性や能力を表す接尾辞 "-ability" が付加され、
“traceability” となります。(直訳=追跡可能性)
2. 一般的具体例
野菜がどの農家で育てられ、どの倉庫を経由して
スーパーに並んだのかがわかるため、
生産者の顔が見えて消費者の安心・安全が確保されます。

医療においても、使用される医薬品や医療材料・機器についても同様のはずです。
3.トレーサビリティとは?
「いつ、どこで、誰が、何を使ったか」
モノの移動に関る情報を記録・見える化することで、
問題があった場合にはその影響範囲を
迅速に特定できるようにするための仕組みです。
4.問題が生じた場合の有効性の具体例
①使用した医薬品や医療機器のロット番号までが患者情報と結びつけられていれば、有害事象が発生した際の再発防止や迅速な原因特定が可能です。

ある患者に投与した薬剤がリコール対象になった場合にも、その薬剤が使用された全ての患者をすぐに特定できるため、迅速な対応が可能です。
②人工硬膜の使用によるクロイツフェルト・ヤコブ病の発生

③脳動脈瘤クリップ使用患者 MRI検査の実施可否 判断の困難さ!

④ペースメーカ リコール時 etc

5.GS 1コードの概要と優位性
GS1コードは、
トレーサビリティを実現するための
グローバルな標準化コード

6.GS1コードの特徴
・モノを一意に識別できる。
(モノの ‘Unique Identification’ が可能になる)
・外箱、包装にも※データキャリアが付与されている。
そのほか様々な医薬品、医療機器、医療材料にGS1コードはついています。
※データキャリア=バーコードやQRコードなど


すでに日本の医療製品にはほぼ100%に表示がされています。
7.トレーサビリティが医療現場にもたらす価値(メリット)
・薬剤取り間違いの大幅削減による医療安全の向上。(英国の報告では76%削減)
・トータルパスウェイ(医療プロセス)の可視化により、消費期限の管理や在庫管理のための時間、手術機器準備のための時間、看護記録記載のための時間などが削減され、患者のケアに充てられる時間が増大することによる患者ケアの質・量を向上。
・製品リコール時に迅速な対応が可能。(英国の報告では8.3日が35分に短縮)
・請求漏れ防止を含め保険請求業務の効率化が図られることにより、不当な変動は減少し、患者レベルでのコスト分析も可能となる。
8.医療トレーサビリティ
医薬品、医療材料・機器の流通情報・使用状況を、工場における生産から医療現場における患者使用まで一気通貫で管理し、その情報を見える化することにより、医療現場の安全、効率化、患者安心の向上を図るとともに、医療全般にわたる付加価値サービスの創出に寄与。

9.具体例
新型コロナワクチンでは、偽造品対策や供給量管理の観点から、GS1コードが国際的に採用されました。
新型コロナワクチン供給に関して、偽造品に加えて、供給量の関係、2回摂取が必要であること、G20で国際的にワクチン摂取をしたことを証明する“digital health passport”の様な仕組みが検討されていること、などから国際的な協調のもとでのトレーサビリティが必要と言われている。
WHOやUNICEFなどと協力のもと、既に多くの国で利用されているGS1の重要性が増している。

UNICEFのガイドラインで紹介されているワクチンへのバーコード表示イメージ
Annex E – Guidelines for barcodes on packaging beyond primary level(https://www.ungm.org/)
出典:HOSPEX Japan 2021 医療機器安全管理セミナー
GS1バーコードの概要と利用薬機法改正による医療製品の表示義務化と世界動向より
10.GS1コードの実証例
イギリスのNHSで行われたGS1コードの大規模実証試験での成果
2016年、NHS(英国保健省)は傘下の6病院をScan4Safetyの実証サイトに 選び、予算を投じてポイントオブケア・スキャンニングを一貫して行うことの効用を検討した。

成果
・製品リコールの迅速化
・医療ミスの削減
・患者ケアの向上とスタッフ満足度の改善
これらの結果から、
GS1コードの導入が医療現場を変革する力を持つことがわかります。
11.医療DXとトレーサビリティの課題
現在、日本のコード体系にはいくつかの課題があります。
・薬価基準収載医薬品コード(YJコード)は事業者を特定できず、国内限定でしか使えない。
・医療情報と製品情報が正確に結びつかない。
これにより、医療現場で必要な情報が分断され、有害事象への対応が遅れる可能性があります。

12.日本の医薬品コード相関図
こんなにもコードが乱立!

13.データヘルス情報
人(患者/国民)は、マイナンバーを軸としたビックデータ情報

医療トレーサビリティ情報は、物 (医薬品・医療機器) の
グローバル標準であるGS1コードを軸としたビックデータ情報

14.医療DXにおける標準化の重要性
人はマイナンバー、モノにはGS1コードを標準とすることで、データ連携の一貫性が保たれます。標準化がなければ、データ連携にひずみが生まれ、患者ケアに影響を及ぼします。
医療DXを進める上で、
優先事項を正しく設定することが重要です。
優先事項を、間違えると
医療DX:データ連携でひずみが必ず生まれる。
unique identification(ユニークID)が重要
15.GS1コードとトレーサビリティの未来
医療製品のトレーサビリティを強化するためには、全ての医療現場で
GS1コードを使ってデータを保存することを常識化させることが不可欠です。
これにより、以下のような未来が実現します。
・患者安全の確保
・医療現場の効率化
・国際的な医療連携の強化
日本の医療DXを成功させるためには、
GS1コードを軸としたトレーサビリティが欠かせません。


